静岡大学サスティナビリティセンター

2024.09.05

山地森林流域における地下水流動量は流域面積に依存する

静岡大学学術院農学領域の江草智弘 助教は、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所との共同研究で、日本全国の森林水文試験地のデータを基に、流域界を越えて移動する地下水の量(地下水流動量; 注1)と流域面積の関係を明らかにしました。

【研究のポイント】

日本全国の152の山地森林流域の水収支データ(注2)を用いて、地下水流動量に流域特性が与える影響を調べました。
地下水流動量は流域面積に強い影響を受けており(注 3)、1 ha以下の小流域では地下水は主に基岩を通って地下深くに浸透し、10 ha以上になると基岩に浸透した地下水の多くは河川に流出することを明らかにしました。
本研究で明らかになった山地森林流域における地下水流動特性は、河川流量の予測精度向上につながることが期待されます。
なお、本研究成果は2024年7月4 日にWater Resources Research誌でオンライン公開されました。

 

【研究概要】

山地森林流域において、流域界を越える地下水流動は河川流出量の形成に重要な役割を果たしています。しかしながら、山地森林流域では、地下水流動量を直接計測することは難しく、その流動特性の解明や予測には至っていません。本研究では日本全国の152の森林水文試験地の水収支データを収集し、機械学習を用いることで、気候・植生・地質・流域面積などの様々な流域特性が地下水流動に与える影響を解析しました。その結果、地下水流動に最も大きな影響を与えるのは流域面積であることが分かりました。具体的には、1 ha以下の小流域では地下深部への地下水浸透が卓越し、流域から水が失われるため河川流量が少なくなるのに対して、流域面積が10 ha以上になると深部への地下水流動による水の損失は少なくなり、上流部で浸透した地下水が最終的には河川に流出することが明らかになりました。
本研究によって、これまで実態の把握が困難であった地下水流動プロセスの解明につながり、河川流出の予測精度向上に貢献することが期待されます。

【用語解説】

注1 流域・流域界・流域面積・流域界を越える地下水流動

流域は、対象とする河川に水を集めてくる範囲を指します。水を集めてくるというのは、水が地形に沿って標高が高い場所から標高が低い場所に流れ、最終的に対象とする河川に流れ込むことを意味します。そして、流域と流域の境目が流域界と呼ばれます。流域界は主に尾根だと考えて差し支えありません。つまり、流域と流域界は地表面の地形で決まるものです。一方で、地下水の流れは、地層の傾きや岩盤の亀裂等に依存することが予想され、必ずしも地表面の地形と一致しません。その結果として、地下水が流域界を越えて隣の流域に出入りする、地下深くに浸透するといったことが起こります。残念なことに、地表面を流れる河川とは異なり、地下水の流れを「見る」ことは困難です。井戸を多点に掘削することで、地下水面の高さを把握し、水の流れる方向と量を推定する研究もありますが、不確実性が大きい上に、多大な労力とコストを要します。

注2 水収支

とある期間に、とある空間に出入りする水量の収支を水収支と呼びます。対象とする期間と空間は任意のものを選択できますが、本研究では1年の、流域の水収支を考えます。流域水収支において考える項目は、雨や雪によって流域にもたらされる水(降水)、河川を流れて流域外に流出する水(河川流出)、蒸発や樹木による蒸散によって大気に放出される水(蒸発散)、流域内に貯留されている水(流域貯留)、流域界を越えて流域外に流出または流域内に流入する地下水(地下水流動)です。これらの水の収支が合うため、降水量 = 河川流出量 + 蒸発散量 + 流域貯留量の時間的変化 + 地下水流動量という関係が成り立ちます。本研究では1年という比較的長い期間を考えているので、これらの項目のうち、流域貯留量の時間的変化は他の項目に比べて十分に小さく、無視することができます。従って、降水量・河川流出量・蒸発散量が求められれば、残った地下水流動量を算出することができます。

注3 地下水流動量の単位

水文学においては、水量の単位をmmという水の高さで表すことが一般的であり、上述の水収支も全てmmの単位を用いて計算されます。mmで表すことにより、流域面積の影響を除いて、大きいサイズの流域と小さいサイズの流域を比較することができます。もし、水の体積で考えたい場合は、水の高さに流域面積をかけることにより、体積に換算します。地下水流動量の単位mm/yearは1年に何mmの水が移動したかを表しています。図において、正の地下水流動量は流域外への流出を示しており、負の地下水流動量は流域外からの流入を示しています。

【論文情報】

掲載誌名: Water Resources Research誌

論文タイトル: Scale dependent inter-catchment groundwater flow in forested catchments: analysis of multi-catchment water balance observations in Japan

著者: 小田智基1、岩崎健太1、江草智弘2、久保田多余子1、岩上翔1、飯田真一1、籾山寛樹1、清水貴範1
1 森林総合研究所
2 静岡大学

DOI: 10.1029/2024WR037161

山地森林流域における地下水流動量は流域面積に依存する

【問い合わせ先】

【研究に関するお問い合わせ】

森林総合研究所 森林防災研究領域 水保全研究室
主任研究員 小田智基
Tel:029-829-8234 E-mail:tomokioda[at]ffpri.affrc.go.jp

静岡大学農学部
助教 江草 智弘
Tel : 054-238-4847 E-mail : egusa.tomohiro[at]shizuoka.ac.jp

【報道に関するお問い合わせ】

静岡大学 総務部 広報・基金課 広報係
Tel :054-238-5179 E-mail : koho_all[at]adb.shizuoka.ac.jp

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